公表前の情報を、公表前に外へ出している
プレスリリースの原稿をAIに整えてもらう。広報の実務としては自然な流れです。
ただ、プレスリリースは公表するまで公表されていない情報です。当たり前のことを書いていますが、ここが見落とされます。
発表日の1週間前に原稿をAIに貼る。その時点では未公表の情報を外部サービスに送っています。発表後なら公開情報ですが、発表前は違います。
上場企業なら、もっと重い
自社が上場している場合、または上場企業と取引がある場合は、話が変わります。
業績、合併、新製品、資本提携。これらの未公表情報は、金融商品取引法上の重要事実にあたることがあります。インサイダー取引規制の対象です。
AIに入力したこと自体が直ちに違反になるわけではありませんが、情報管理の体制として問題になります。適時開示の前に情報が社外のサーバーに渡っていた、という事実は説明が難しい。
共同発表の案件では、相手方の未公表情報も原稿に入っています。自社の判断では出せません。契約で守秘義務がかかっていることがほとんどです。
非上場でも困ること
上場していなくても、未公表情報の流出は実害があります。
新製品の発表前に仕様が漏れれば、競合に先回りされます。採用計画が漏れれば、人材獲得で不利になります。設備投資の計画が漏れれば、価格交渉に響きます。
加えて、発表のタイミングを握れなくなります。広報の価値の多くは、いつ出すかのコントロールにあります。
発表後にずらせる作業
対策として一番簡単なのは、作業の順番を変えることです。
| 作業 | 発表前にやる必要があるか |
|---|---|
| リリース本文の推敲 | ある。だから抽象化して相談する |
| SNS投稿文の作成 | ない。発表後でよい |
| 想定問答の作成 | ある。ただし一般論として聞ける |
| 英訳 | ある。仮の値に置き換える |
| 関連記事・ブログの作成 | ない。発表後でよい |
| メディアリストの整理 | そもそも原稿が不要 |
半分くらいは発表後にずらせます。ずらすだけで、リスクがゼロになる作業はずらしてください。
発表前にどうしても相談したい場合
本文の推敲は発表前にやるしかありません。その場合の書き方です。
そのまま貼る場合
11月15日発表予定のプレスリリースです。推敲してください。
「株式会社〇〇は、△△株式会社と資本業務提携し、新型の□□を2027年4月に発売します。出資比率は20%、想定価格は…」
構成だけ相談する場合
製造業の資本業務提携のプレスリリースを書いています。構成を見てください。
現在の構成:①提携の概要 ②両社の紹介 ③提携の背景 ④今後の展開 ⑤問い合わせ先
抜けている項目や、順番で改善すべき点はありますか
文章表現だけ直す場合
以下の一文を、報道各社に伝わりやすい表現に直してください。固有名詞は仮名です。
「A社はB社と提携し、新製品を来春発売します」
構成の相談と表現の相談に分けると、具体的な中身を出さずに済みます。どちらも実際に役立つ部分です。
画像にも気をつける
製品写真を入れて説明文を作らせる、というのもよくあります。
未公表製品の写真は、本文以上に価値のある情報です。そして画像には撮影日時や撮影場所の情報が埋め込まれていることがあります。
発表前の製品画像は、AIにアップロードしないほうがいい。この点は建設業の記事で書いた現場写真と同じ構造です。
広報部門のルール
広報業務における生成AIの利用
1. 公表前のリリース原稿を、本文のままAIに入力しないでください。
2. 推敲や表現の相談は、社名・製品名・数値・日付を仮名または伏せ字にしたうえで行ってください。
3. 未公表の製品画像、資料のスクリーンショットをアップロードしないでください。
4. 共同発表の案件では、相手方の情報も同様に扱ってください。
5. SNS投稿文や関連記事の作成は、発表後に行ってください。
6. 当社が上場企業または上場企業との取引に関する発表の場合は、事前に〇〇へ相談してください。
ガイドラインのひな形に追記して使えます。
発表後は、むしろ積極的に使える
最後に前向きな話を。
発表してしまえば公開情報です。そこから先は制約がありません。
リリースを元にSNS用に短くする、業界メディア向けに切り口を変える、顧客向けのメール文面にする、社内向けの説明資料にする。同じ内容を何通りにも展開する作業は、AIが得意です。
発表前は慎重に、発表後は大胆に。この切り替えができると、広報の生産性はかなり上がると思います。