現場と事務所で、リスクの形が違う
建設業で生成AIが使われる場面は、大きく2つに分かれます。事務所での書類作成と、現場でのスマホ利用です。
この2つは、起きる事故の形がまったく違います。同じルールで括ると、どちらにも効きません。
現場写真が一番危ない
「この納まり、どう処理すればいいか」と写真を撮ってAIに聞く。実務としては自然で、しかも効きます。
ただ、写真には写したつもりのないものが入ります。
工事看板に元請の社名と工事名が入っている。建築計画のお知らせが写っている。作業員の顔が写っている。駐車している車のナンバーが読める。
さらに、スマホで撮った写真には撮影位置の情報(GPS)が埋め込まれていることがあります。工事名が分からなくても、座標で現場が特定できます。
iPhoneなら写真アプリで画像の情報を開くと地図が出ます。出るなら位置情報が入っています。共有時に位置情報を外す設定が用意されているので、現場利用があるならオンにしておいてください。
対策は難しくありません。撮る範囲を狭くする。納まりを聞きたいなら、納まりだけを撮る。看板も人も入らない距離で撮れば、ほとんどの問題が消えます。
元請から受領した図面
設計図、特記仕様書、施工図。これらは元請または施主の資産です。預かっているだけで、自社の判断で外に出せません。
工事請負契約には、たいてい秘密保持の条項が入っています。公共工事なら、発注者の定める情報管理のルールが適用されます。
この構造は製造業と同じなので、こちらの記事の考え方がそのまま使えます。図面を出さずに、条件だけを言葉にして聞く。
そのまま貼る場合
(特記仕様書のPDFを添付)〇〇市役所庁舎改修工事です。この仕様で施工できますか
条件だけ書く場合
RC造の既存庁舎の改修です。外壁は吹付タイル、下地はひび割れあり。
既存を撤去せず改修する前提で、下地処理の一般的な工法と、注意点を教えてください
安全書類に個人情報が入っている
見落とされやすい論点です。
作業員名簿、新規入場者調査票、グリーンサイトに登録する情報。氏名、生年月日、住所、血液型、緊急連絡先、保険の加入状況が揃っています。
血液型や健康に関する情報は、扱いの重い情報に当たり得ます。
「安全書類の書き方を教えて」と聞くのは問題ありません。書類そのものをアップロードするのが問題です。ひな形の作り方を聞くなら、実物は要りません。
原価と実行予算
自社の情報なので法令上の問題は起きにくい。ただ、営業上はこれが一番痛い。
実行予算の組み方、下請の単価、歩掛り。これが外に出ると、次の入札や価格交渉に響きます。
「この工事の実行予算を組んで」と数字ごと貼る使い方は避けてください。「RC造3階建て、延床〇〇平米の改修工事で、実行予算を組むときの項目の抜けを確認したい」なら、数字は要りません。
建設業で実際に効く使い方
制限ばかり書きましたが、使いどころは多い業種だと思っています。
| 用途 | 入力するもの |
|---|---|
| 施工計画書のたたき台を作る | 工種と条件のみ。固有名詞なし |
| KY活動のネタ出し | 作業内容のみ |
| 法令・基準の確認 | 条文名や基準名。公開情報 |
| 安全教育の資料作成 | テーマのみ |
| 近隣説明の文面を整える | 工事内容の概要。住所は伏せる |
| 職人向けの作業手順書を平易に直す | 自社で書いた文章 |
書類作成の負担が大きい業種なので、ここが軽くなる効果は本当に大きい。入れるものを選べば、ほとんどの用途が成立します。
現場向けのルールは、3行で
現場の人に長い規程を読ませても守られません。ヘルメットのシールくらいの分量にしてください。
現場でAIを使うときの3つ
1. 写真は、聞きたいところだけを撮る。看板・人・車を入れない
2. 図面と仕様書は送らない。言葉で説明する
3. 作業員名簿・安全書類は送らない
事務所向けには、ガイドラインのひな形をベースに、図面と原価の項目を足してください。
元請から聞かれる日が来る
ゼネコンや大手が情報管理を整備すると、協力会社にも確認が来ます。書面での提出を求められることもあります。
そのとき、現場向けの3行と事務所向けのルール、それに教育の記録があれば答えられます。聞かれてから作ると間に合わない。
この話は教育実施の示し方に詳しく書きました。