「やっています」では通らなくなった
取引開始時のチェックシートに、生成AIの項目が入るようになりました。社内規程はあるか。従業員への教育は実施しているか。
口頭で「実施しています」と答えて済んだのは少し前までです。最近は、実施記録の提出を求められることが増えています。
そして多くの会社が、ここで詰まります。実際にやっているのに、示すものがない。朝礼で話した。メールで注意喚起した。どちらも記録としては弱い。
対策していることと、していると示せることは別の問題です。前者だけあって後者がないと、評価されません。不公平に見えますが、相手も自社の監査で説明する必要があるので、記録が要るのです。
記録として成立する条件
何をもって「教育を実施した」と言えるのか。相手が見ているのは、だいたい次の4点です。
| 項目 | なぜ見られるか |
|---|---|
| 誰が受けたか | 対象者全員が受けたのか、一部なのか |
| いつ受けたか | 3年前では古い。直近1年以内かどうか |
| 何を学んだか | 内容が生成AIのリスクを含んでいるか |
| 理解したと確認できるか | 聞いただけなのか、テストなどで確認したのか |
4番目が弱点になりがちです。動画を流しただけ、資料を配っただけだと、受けたことの証明にはなっても、理解の証明にはなりません。
テストの点数まで残っていると、ここが埋まります。
自前でやるなら、最低限これを残す
外部のサービスを使わなくても、記録は作れます。手間はかかりますが、やれば成立します。
- 実施日、場所、講師、所要時間を書いた実施報告書
- 使った資料そのもの(版と日付を入れる)
- 参加者名簿。署名か、少なくとも人事データと突き合わせられる形で
- 理解度確認のテストと、その採点結果
- 欠席者へのフォローの記録
5番が抜けている会社が多い。全社員が対象なのに、当日いなかった人が放置されていると、「対象者全員が受けた」と言えなくなります。
テストは、受けた人が全員満点を取るような簡単なものにしないこと。全員満点の記録は、見る側に「形式的にやっただけ」と伝わります。何人か落ちて、再受験して合格した記録のほうが、むしろ信用されます。
eラーニングを使う場合に見るところ
外部の講座を使う場合、受講記録が出せるかどうかが分かれ目です。修了証だけ出て中身の記録が出ないものだと、4点のうち2つしか埋まりません。
選ぶときに確認してほしいのは次の3つです。
まず、受講者ごとの記録が出力できるか。誰が、いつ、どこまで進んだか。
次に、理解度の確認があるか。読み飛ばしても修了できる作りだと、記録の意味が薄い。
最後に、修了証に何が書かれるか。氏名、講座名、修了日、学習時間。このあたりが入っていないと、提出資料として使いにくい。
AI Security Lab でもこの3つを満たす設計にしています。管理者は受講ログをCSVで出力でき、受講者ID・レッスンID・完了日時・プランが入ります。修了証には氏名、プラン、修了日、標準学習時間が記載されます。理解度チェックと章末テストの採点はサーバー側で行っていて、受講者の画面には正解データを渡していません。
記録から始めると、中身も整う
順番の話をします。
完璧な教育体制を作ってから記録を残そうとすると、たいてい始まりません。逆に、記録を残すことから始めると、必要なものが見えてきます。
参加者名簿を作ろうとすると、まず対象者を定義する必要が出てきます。誰が生成AIを使っているのか把握していないと名簿が作れない。そこで実態を調べることになります。
テストを作ろうとすると、何を理解してほしいのかを決める必要が出てきます。そこでルールを言語化することになります。
記録は、形式主義ではなく入口です。実際そうやって整っていく会社を何度か見ています。
一度作ると、使い回せる
最初の1回がいちばん大変です。資料を作って、日程を調整して、テストを用意して。
ただ、2回目からは楽になります。新入社員が入るたびに同じものを使えばいい。年1回の更新も、前年の資料に追記するだけで済みます。
取引先からの調査票も、一度まとめておけば次回は差分だけ。毎年ゼロから作っている会社が多いのですが、そこはもったいない。