禁止と不使用は違う
会社が許可していない生成AIを社員が業務で使っている状態を、シャドーAIと呼びます。昔からあるシャドーITの生成AI版です。
この手の話で一番厄介なのは、禁止した会社ほど実態が見えなくなることです。使っている側は、使っていると言えません。だから聞いても出てきません。アンケートを取っても正直な数字は返ってきません。
見つけ方は、申告に頼らない方法を組み合わせるしかない。
通信から見る
いちばん確実なのはここです。社内ネットワークから主要な生成AIサービスのドメインへの通信があるかを見ます。
UTMやファイアウォール、プロキシのログが残っていれば、宛先ドメインの一覧を出すだけで分かります。chatgpt.com、claude.ai、gemini.google.com あたりを見れば、だいたいの利用状況はつかめます。
社用スマホのモバイル回線、自宅からのリモート作業、個人スマホは、この方法では一切見えません。むしろそちらのほうが多いこともあります。通信ログで出た数字は「最低でもこれだけはある」という下限として扱ってください。
ブラウザ拡張とアプリから見る
資産管理ソフトを入れているなら、インストール済みアプリとブラウザ拡張の一覧を見ます。生成AI連携をうたう拡張はかなりの数が出回っていて、ページの内容を外部に送るものも含まれます。
「要約」「文字起こし」「翻訳」「メール返信作成」。この手の名前の拡張は、裏で本文をどこかのサーバーに送っていることがあります。社員は便利な翻訳ツールだと思って入れています。悪意はありません。
資産管理ソフトがない会社でも、ブラウザの拡張一覧を各自に見せてもらうだけで出てきます。会議の場でその場で開いてもらうのが早い。
お金の流れから見る
経費精算を見ます。月20ドル前後の海外サービスへの支払いが、個人のクレジットカードで立て替え精算されていないか。
これは見つけやすいわりに、意外とやられていません。精算の摘要欄に「ソフト利用料」とだけ書いてあるものを開くと出てきます。
自腹で払っていて精算もしていない人は、この方法でも出てきません。そして実際、そういう人がいちばん多い。
成果物の変化から見る
定量的ではないので最後に置きますが、現場感覚としては馬鹿にできません。
ある時期から急に、特定の人の報告書の文体が変わる。やたらと構造化されていて、見出しが揃っていて、しかし内容が薄い。箇条書きが必ず3つで揃っている。
これ自体は悪いことではありません。使うこと自体が問題なのではなく、会社が把握していないことが問題です。見つけたら、責めずに「どのツールを使っているか教えてほしい」と聞く。それだけで実態がかなり分かります。
見つけた後にやってはいけないこと
摘発しないでください。
一人を吊るし上げると、残りの全員が地下に潜ります。そこから先は何をやっても実態が出てきません。半年後に取引先から「御社の資料が外部AIに入っていたようだが」と言われる展開になります。
見つけた時点でやることは、禁止ではなく代替の提示です。
- 何に使っていたのかを聞く(だいたい、メール文面の作成か議事録の要約です)
- その用途を、会社が契約したサービスで代替できるか検討する
- 代替できるなら移ってもらう。できないなら、入れてよい情報の範囲を決めて続けてもらう
2番ができない会社が、禁止だけして失敗します。業務上の必要があるから使っているのであって、必要が消えない限り使われ続けます。
全面禁止でも全面自由でもなく、「このサービスなら、この範囲の情報まで」と決める。ガイドラインのひな形はその形で書いています。
完全には見つからない、という前提で設計する
ここまで4通り書きましたが、全部やっても個人スマホでの利用は見えません。見えないものは、見つけようとするより、見つからなくても被害が出ない設計にしたほうが早い。
具体的には、入れてはいけない情報を具体名で共有しておくこと。使っているツールが何であれ、顧客メールを貼らない判断ができていれば、被害は出ません。
ツールを塞ぐより、判断を揃えるほうが効く。全部のツールを塞ぐのは無理だけど、判断は全員に配れます。