図面は、預かりものであることが多い
製造業で生成AIを使うとき、最初に引っかかるのが図面です。
自社で描いた図面なら、出すか出さないかは自社の判断で決められます。ただ、受託加工をしている会社の手元にある図面の多くは、発注元から預かったものです。所有権も、秘密保持の義務も、相手方にあります。
自社の判断では出せません。ここが他の業種と違うところです。
取引基本契約や個別の秘密保持契約に、「第三者に開示してはならない」という条項が入っているはずです。生成AIのサービス提供者は、この「第三者」に当たり得ます。AIという言葉が契約に書いていなくても、条項は効きます。
「AIは人じゃないから第三者じゃない」という理屈は通りません。データを預かっているのは事業者です。
現場で実際に起きていること
見聞きする範囲で多いのは、このあたりです。
| 場面 | 何が出ているか |
|---|---|
| 図面を撮影して「この加工は可能か」と相談 | 発注元の図面そのもの。品番や社名が写り込んでいることが多い |
| 見積の根拠を整理させる | 自社の原価構造。これは自社の資産だが、出したくないもの |
| 不具合の報告書を書かせる | 発注元の社名、製品名、不具合の内容 |
| 海外の取引先へのメールを翻訳させる | 取引条件、単価、納期 |
| 設備の制御プログラムを直させる | 自社の製造ノウハウ。流出しても気づけない類のもの |
翻訳が盲点です。相手が海外だと英文メールを書く負担が大きいので、ほぼ確実に使われます。そして内容は、だいたい単価と納期です。
図面を出さずに相談する方法はある
全面禁止にすると現場が困ります。加工の相談は実際に有用だからです。
やりようはあります。図面そのものを出さずに、必要な情報だけを言葉にする。
そのまま貼る場合
(発注元の図面画像を添付)この部品、加工できますか
情報を抜き出す場合
SUS304の板材、厚さ3mm。φ8の穴を12箇所、公差±0.05。曲げ2箇所、R3。
この仕様で量産するとき、注意点はありますか
下のほうが回答の質も高くなります。図面画像を読ませるより、条件を言語化したほうがAIは答えやすい。
手間は30秒です。その30秒を惜しんで契約違反になるのは割に合いません。
品番、発注元の社名、図面番号、ロゴ。この4つが消えていれば、多くの場合は一般的な技術相談になります。残っていたら止める。現場で使うなら、このくらい単純な基準のほうが守られます。
取引先から聞かれる側になっている
発注元の大手が自社の生成AI利用を整備すると、次は取引先に確認が来ます。取引開始時のチェックシートや、年次の調査票に項目が増えます。
社内規程はあるか。従業員教育は実施しているか。使っているサービスは何か。
ここで「特に決めていません」と答えると、取引の条件で不利になります。詳しくはこちらの記事に書きました。
逆に言えば、先に整備しておくと差がつきます。同業他社がまだ手をつけていないうちは、わりと効きます。
まず決めるのは3つだけ
製造業で最初に決めるべきことは、そんなに多くありません。
- 発注元から預かった図面・仕様書は、形式を問わず入力しない
- 自社の原価・製造条件・制御プログラムも入力しない
- 相談したいときは、品番と社名を外して条件だけを書く
この3行を現場に貼っておくだけで、起きうる事故の大半は止まります。ガイドラインのひな形に足して使ってください。
完璧な規程を作るより、3行を全員が覚えているほうが強い。現場はそういうものだと思っています。