一般的な整理です。弁護士法との関係や個別の運用については、弁護士にご確認ください。
契約書は、相手方の情報でもある
契約書をAIに読ませたいという相談は多い。長くて読むのが大変で、しかも見落とすと痛い。AIが向いていそうに見えます。
ただ、契約書には必ず相手方がいます。相手の社名、担当者名、取引条件、単価。これらは自社だけの情報ではありません。
そして多くの契約書には、契約内容自体を秘密として扱う条項が入っています。契約書を外部サービスに入れること自体が、その条項に触れる可能性があります。
条項だけを抜き出して聞く
実務で使える形はこうです。契約書全文ではなく、気になる条項だけを、固有名詞を伏せて貼る。
そのまま貼る場合
(契約書PDFを添付)株式会社〇〇建設との工事請負契約です。
不利な条項がないか見てください
条項だけ抜く場合
工事請負契約の条項です。発注者側に有利すぎないか、受注者の立場で見てください。
「乙の責めに帰すべき事由により工期が遅延した場合、乙は甲に対し、遅延1日につき請負代金額の1,000分の3に相当する違約金を支払う。」
この水準は一般的な相場と比べてどうか、交渉するならどの論点か教えてください
下のほうが回答の質も高くなります。論点が絞られるからです。全文を読ませると、どこを見てほしいのかが伝わりません。
社名は「甲」「乙」のままで十分です。金額は桁だけ残して「請負代金額の1,000分の3」のように比率で聞く。日付は「契約締結日から〇日」に置き換える。これで特定できなくなります。
出力をそのまま信じない
ここが実は一番危ない。生成AIは、存在しない条文番号や判例を、もっともらしく出すことがあります。
「民法第〇〇条により無効です」と言われたとき、その条文が本当にその内容かを確認してください。条文番号が実在しても、内容が違うことがあります。
特に注意するのは次の4つです。
- 条文番号と内容の一致
- 法改正の反映(古い条文のまま答えることがある)
- 判例の実在(架空の事件名が出ることがある)
- 業種特有の規制(建設業法、下請法、労働者派遣法など)
3番が怖い。もっともらしい事件名と年月日で出てきます。使う前に必ず検索してください。
弁護士法との関係
自社の契約書を自社で確認するために使う分には、問題になりにくい。
論点になり得るのは、AIの出力をもとに他社の契約書をレビューして対価を得るような場合です。弁護士法第72条との関係が議論されてきた領域で、法務省が過去に関連する考え方を示しています。
自社利用の範囲を超えるなら、弁護士に確認してください。士業の方が顧問先の契約書を扱う場面についてはこちらの記事に書きました。
向いている使い方、向いていない使い方
| 使い方 | 向き | 補足 |
|---|---|---|
| 条文の意味を平易に言い換えてもらう | 向く | 理解の補助。間違えても自分で気づける |
| 一般的な契約類型の条項一覧を出す | 向く | 抜けの確認に使える |
| 交渉の論点を洗い出す | 向く | 自分では思いつかない角度が出る |
| こちらの修正案の文案を作る | やや向く | たたき台まで。最終確認は人が要る |
| 法的リスクの有無を断定させる | 向かない | 断定された内容が間違っていても分からない |
| 締結の可否を判断させる | 向かない | 責任を取れない相手に決めさせている |
上3つだけでも、契約書を読む速度はかなり変わります。「この条文、何を言っているのか」で止まる時間が減るからです。
社内ルールの書き方
契約書については、ガイドラインに1項目足しておくと迷いません。
契約書について
締結済み・交渉中を問わず、契約書のファイルをそのままAIに入力しないでください。
条項の意味を確認したいときは、該当部分だけを抜き出し、社名・金額・日付・担当者名を伏せたうえで入力してください。
AIが示した条文番号や判例は、必ず元の条文を確認してから使ってください。
ガイドラインのひな形に追記して使えます。
読む速度は上がる。判断は変わらない
使ってみた実感として、契約書を読む心理的なハードルはかなり下がります。分からない条文で止まらなくなるからです。
ただ、締結するかどうかの判断は何も変わりません。そこは変わらないほうがいい。
速く読めるようになったぶん、重要な条項に時間を使う。そういう使い方に落ち着くのが健全だと思っています。