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不動産業で生成AIを使うとき、物件情報と顧客情報を分ける

公開 2026-10-27

「〇〇マンション301号室を、年収500万円・勤務先△△の田中様に」。この一文に物件の特定情報と個人の属性が同時に入っています。

物件情報と顧客情報が、常に一緒に動く

不動産の実務では、物件と顧客が必ずセットで出てきます。

「〇〇マンション301号室を、年収500万円・勤務先△△の田中様に紹介したい」。この一文に、物件の特定情報と個人の属性が同時に入っています。

そして扱う件数が多い。メール1通ごとに、この組み合わせが発生します。

物件を特定できる情報 物件名・所在地・部屋番号・地番 登記簿、公図、測量図 売主の売却理由、下限価格、事情 顧客を特定できる情報 氏名・連絡先・勤務先・年収 本人確認書類、収入証明 与信情報、家族構成、転居の事情 伏せても成立するもの 「築25年RC・駅徒歩8分・3LDK」のような条件 「30代共働き・予算5,000万円台」のような属性 条件だけなら、提案の相談は問題なくできる
物件と顧客、どちらも特定情報を外せば相談は成立する。問題は、メールをそのまま貼ると両方が一度に出ること。

売主の事情は、顧客情報より漏れると痛い

見落とされやすい論点です。

「離婚のため早期売却を希望」「相続で揉めており期限がある」「住宅ローンの返済が厳しい」。これらは売却活動の背景として社内で共有される情報です。

個人情報であると同時に、交渉上の弱みそのものです。買主側に漏れたら、価格交渉で完全に不利になります。

販売図面を作る、広告文を考えるといった相談で、つい背景まで書いてしまう。「急いでいるので早く売りたい旨が伝わる文面に」といった書き方です。

伝えるべきは「早期売却希望」という事実だけで、理由は不要です。

重要事項説明書をAIに作らせていいか

結論から言うと、下書きまでは使えますが、そのまま使ってはいけません。

理由は2つあります。

ひとつは、内容が間違っていても責任は宅建士にあること。AIが書いたから、は通りません。

もうひとつは、生成AIが都市計画法や建築基準法の規制を取り違えることがあること。用途地域、建ぺい率、接道義務、日影規制。条文の解釈が古かったり、自治体の条例を反映していなかったりします。

⚠ 自治体の条例は特に危ない

法令は全国共通でも、条例と指導要綱は自治体ごとに違います。AIは一般論で答えるので、その自治体の運用を反映しません。必ず役所で確認してください。

使うなら、章立てや記載項目の抜け確認まで。中身は自分で埋める。それでも作業時間は減ります。

個人情報保護法の論点

不動産業は、取得する個人情報の量と質が重い業種です。本人確認書類、収入証明、勤務先、家族構成。

個人情報保護委員会は2023年6月の注意喚起で、個人データを含むプロンプト(AIに入力する文章)を入力する場合、特定した利用目的を達成するために必要な範囲内かを十分に確認するよう求めています。

自社のプライバシーポリシーに書いた利用目的が「物件のご紹介および契約手続きのため」なら、その範囲での利用になります。顧客データを使った市場分析をAIにさせるのは、範囲外になり得ます。

詳しくは個人情報保護法の記事を見てください。

実務で効く使い方

制限を書いてきましたが、文章を書く量が多い業種なので、使える場面は多い。

用途入力するもの
販売図面のキャッチコピーを考える間取り・築年・駅距離などの条件のみ
物件紹介文のバリエーションを作る同上。物件名と住所は伏せる
内見後のフォローメールの文面状況の要約のみ。氏名は後で入れる
住宅ローンの一般的な仕組みの説明文公開情報のみ
管理規約の条文を平易に言い換える条文のみ。マンション名は外す
SNS・ブログの集客記事一般的な市況や制度の話

広告文の作成は本当に効きます。同じ物件でもターゲット別に書き分けられるので、反響が変わります。条件だけで足りるので、リスクもない。

広告表現のチェックには使わない

ひとつ注意点があります。

不動産の広告には、不動産の表示に関する公正競争規約という細かいルールがあります。「駅徒歩」の計算方法、「完全」「万全」といった表現の制限、おとり広告の禁止。

AIにこの適合性を判断させると、もっともらしく間違えます。規約の改正も反映されません。

文案を作るのには使い、適合性の確認は人がやる。ここは分けてください。

店舗での運用ルール

生成AI利用のルール(〇〇不動産)

1. お客様の氏名・連絡先・勤務先・年収・家族構成は入力しないでください。
2. 本人確認書類、収入証明、契約書は、画像・PDFを問わず入力しないでください。
3. 物件名、所在地、部屋番号、地番は入力しないでください。条件(間取り・築年・駅距離)だけで相談してください。
4. 売主様・貸主様の売却理由や事情は入力しないでください。
5. 重要事項説明書、契約書の文面をAIが作成したまま使用しないでください。必ず宅建士が確認してください。
6. 法令・条例の適用は、必ず役所または最新の資料で確認してください。
7. 入力してしまった場合は、すぐに〇〇へ連絡してください。咎めません。

ガイドラインのひな形をベースにしています。

反響営業との相性がいい

最後に前向きな話を。

問い合わせへの初速が勝負の業界なので、返信文を素早く作れることの価値は高い。条件だけで文面が作れるなら、リスクを取らずに速度だけ上げられます。

氏名を入れずに文面を作って、送る直前に宛名を差し込む。この運用が定着すれば、速度も安全も両立します。クレーム対応の記事に書いた抽象化のやり方が、そのまま応用できます。

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この記事で書いた判断を、A4一枚にまとめてあります。 そのまま印刷して、生成AIを使う人のPCの横に貼れます。社名を入れ替えて社内で配っても構いません。
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速度と安全は両立する

氏名を入れずに文面を作って、送る直前に宛名を差し込む。この運用が定着すれば、リスクを取らずに速度だけ上がります。

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