規程づくりは、AIが向いている作業
ここまでの記事では「入れないでください」という話が多かったので、今回は向いている使い方の話をします。
社内規程、業務マニュアル、手順書。これらをAIで作るのは、情報漏洩の観点からはリスクが小さい。自社で書く文章であって、顧客情報も取引先の資料も要らないからです。
そして効果が大きい。規程類は、ゼロから書くのが本当に大変です。
一番の効用は「抜けに気づく」
自分で書くと、自分が知っている項目しか書けません。
「中小企業の情報セキュリティ規程に一般的に含まれる項目を列挙して」と聞くと、考えていなかった項目が出てきます。委託先の管理、持ち出しの手続き、廃棄の方法、違反時の対応。
出てきた項目を全部入れる必要はありません。見て「うちには要らない」と判断するだけでも、検討した証跡になります。
「規程を作って」ではなく「一般的に含まれる項目を列挙して、それぞれ1行で説明して」と聞く。完成品を出させるより、チェックリストを出させたほうが使えます。
そのまま使うと、必ず分かる
AIが出した規程をそのまま配ると、読む側に伝わります。
理由は単純で、自社の実態と合っていないからです。
存在しない部署名が出てくる。使っていないシステムの名前が書いてある。従業員30人の会社に、部門長・統括責任者・監査担当という役職が3つ並ぶ。
読んだ社員は「これ、うちの話じゃないな」と判断して、以降は読まなくなります。規程が形骸化する原因の多くはこれです。
実態に合わせる作業
たたき台ができたら、次の順で直します。
- 登場する役職・部署を、実在するものに置き換える(兼務なら「総務担当」のように)
- 実際にやっていない手続きを削る
- すでにやっているのに書いていないことを足す
- 「速やかに」「適切に」を具体的な表現に直す
- 社内の誰が読んでも分かる言葉にする
2番が重要です。やっていない手続きを規程に書くと、規程違反の状態が常態化します。監査や事故のときに、守られていない規程があるほうが印象は悪い。
4番も効きます。「速やかに報告する」ではなく「気づいた当日中に、総務の〇〇に連絡する」。これなら守れているかどうかが判定できます。
法令が絡む部分は必ず確認する
ここは省略できません。
AIは、古い法令で答えることがあります。改正前の条文、廃止されたガイドライン、変更前の数値。もっともらしく書かれるので、知らないと気づけません。
特に次の領域は、専門家の確認が要ります。
| 内容 | 確認先 |
|---|---|
| 懲戒・不利益処分に関わる条文 | 社労士・弁護士 |
| 就業規則との整合、労基署への届出 | 社労士 |
| 個人情報の取扱い、委託先の監督 | 弁護士 |
| モニタリング・ログ取得の範囲 | 社労士 |
| 業種固有の規制(建設業法、薬機法等) | 業種の専門家 |
AIで作ったたたき台を専門家に見てもらうほうが、ゼロから依頼するより費用も時間も抑えられます。白紙から作ってもらうのではなく、たたき台のレビューを依頼する形にしてください。
「今の規程を読ませて改訂案を出したい」という使い方があります。就業規則や情報セキュリティ規程には、自社の体制や取引先名が書かれていることがあります。アップロードする前に中身を確認してください。
マニュアル・手順書はもっと向いている
規程より、業務マニュアルのほうが相性がいい。法令の確認が要らないぶん、気楽に使えます。
特に効くのが、ベテランの頭の中を文書にする作業です。
熟練者に口頭で手順を話してもらい、それを文字起こしして、AIに整理させる。箇条書きに直して、順番を整えて、抜けを指摘してもらう。
これをやると、属人化していた業務が形になります。本人が書くと時間がかかって進まない作業が、聞き取り1時間と整理30分で終わる。
ただし、文字起こしツールを使う場合は、録音データの扱いを確認してください。
生成AIの利用ルール自体も作れる
メタな話ですが、生成AIの社内ルールもAIで作れます。
ただ、出てくる文章は抽象的になりがちです。「機密情報を入力しない」「個人情報を入力しない」。これだと守られません。
具体名で書く必要があります。ガイドラインのひな形は、そのまま使える形で書いてあるので、こちらをベースにしたほうが早いと思います。
作った後が本番
規程は、作って配って終わりにすると3ヶ月で忘れられます。
読み合わせをする、質問を受ける、実際に起きた事例を追記する。この繰り返しで定着します。
AIで作成時間が短くなったぶん、定着のほうに時間を使ってください。そこは短縮できないし、短縮すると意味がなくなる部分です。