申請フローは、厳しくするほど守られなくなる
新しいAIツールを使いたいとき、誰にどう申請するか。制度として整えたくなる領域です。
ただ、ここは作り込むほど失敗します。
申請書を書いて、部長の承認をもらって、情シスの審査を待って、2週間後に可否が出る。この運用にすると、誰も申請しません。申請せずに使います。そして会社から見えなくなる。
3段階に分ける
全部を同じ手続きにすると、重いほうに合わせるしかなくなります。リスクで分けてください。
| 区分 | 対象 | 手続き |
|---|---|---|
| ① 届出不要 | 会社が契約済みのサービス。公開情報だけを扱う用途 | なし。自由に使う |
| ② 事前連絡 | 無料サービス、ブラウザ拡張、個人利用の範囲 | チャットで一言。原則その日に返事 |
| ③ 審査 | 顧客データを扱う、業務システムと連携する、有料契約する | 書面で申請。情シスと責任者が確認 |
①を広く取るのがコツです。すでに契約しているサービスを使うたびに申請させる運用は、意味がないうえに嫌われます。
③は本当に必要なものだけ。月に1〜2件あるかどうかの頻度に収まるはずです。
②の返事を速くする
この制度が回るかどうかは、ここで決まります。
「使っていいですか」に対して、その日のうちに返す。即答できないなら「調べるので3日ください」と返す。放置しない。
1週間返事がないと、次から聞かれなくなります。制度は死にます。
「無料版は不可。有料版なら〇〇の条件で可」「会社契約の△△で同じことができるので、そちらを使ってください」「調べるので3営業日ください」。この3つがあれば、大半はその場で返せます。
判断の基準をあらかじめ決めておく
聞かれてから考えると遅くなります。先に基準を書いておけば、担当者が迷いません。
- 入力したデータが学習に使われない契約か(規約で確認できるか)
- 扱うデータに顧客情報・個人情報が含まれるか
- 会社のアカウントで利用できるか(個人アカウント必須なら不可)
- 退職時にアカウントと保存データを回収できるか
- すでに契約しているサービスで代替できないか
5番から考えるのが実は効率的です。代替できるなら、審査そのものが不要になります。
4番の論点は退職者のアカウントの記事に詳しく書きました。
申請フォームは5項目で足りる
③の審査でも、項目を増やさないでください。書くのが大変だと、申請されません。
AIツール利用申請
申請者: 申請日:
1. 使いたいサービス名とURL
2. 何に使いたいか(1〜2行)
3. 入力する情報に、顧客・個人・取引先の情報が含まれるか(はい/いいえ)
4. 料金(無料/有料・月額〇〇円)
5. すでに社内にある〇〇では代替できない理由
――以下、情シス記入――
確認:学習利用の有無/データ保存先/法人契約の可否/退職時の回収
結果:可/条件付き可(条件: )/不可(理由: )
回答日:
5項目なら3分で書けます。10項目になると書かれません。
不可にするときは、代替を出す
「ダメです」だけで返すと、黙って使われます。これは何度でも言う価値があると思っています。
業務上の必要があるから申請しているので、必要が消えない限り、何らかの方法で解決しようとします。会社が解決しないなら、個人で解決します。
「それは使えません。同じことが〇〇でできます」まで返す。代替がないなら「現状は代替がないので、半年後に再検討します」と期限を切る。
この話は会社が把握していないAIの見つけ方にも書きました。禁止は実態を隠すだけで、なくしません。
台帳を1枚持つ
申請を受けたら、結果を記録します。スプレッドシート1枚で足ります。
列は、サービス名、申請者、申請日、用途、判断、条件、回答日。7列です。
これがあると3つ得をします。同じ質問に2回答えなくて済む。何が使われているかの一覧になる。取引先から聞かれたときに出せる。
3番目が地味に効きます。「社内で利用を認めているAIサービスの一覧はありますか」と聞かれる場面が増えています。教育実施の示し方と同じで、記録があるかどうかで答えられるかが決まります。
半年に一度、見直す
一度不可にしたサービスが、法人プランを出して条件を満たすようになることがあります。逆に、許可したサービスが規約を変えることもあります。
台帳を見返して、判断が今も妥当かを確認する。半年に一度、30分で済みます。
制度として重く作るより、軽い制度を回し続けるほうが結果的に機能します。ここは本当にそうだと思っています。