一番危ないのに、一番警戒されていない
生成AIのリスクというとChatGPTに文章を貼る場面が想像されますが、実際に危ないのは会議の録音です。
理由ははっきりしています。入力している人に「情報を入力している」という自覚がないからです。録音ボタンを押すだけ。あとは勝手に文字起こしされて、要約まで出てくる。便利すぎて、何を外部に送っているのかを考える隙がありません。
そして会議の中身は、だいたい社内で一番濃い情報です。取引先の名前、金額、人事の話、トラブルの経緯。議事録に残さないような雑談も全部拾われます。
直近の社内会議を思い出してください。あの1時間の録音が、どこかのサーバーに平文で保存されているとして、困らないでしょうか。だいたいの会社で困ります。
どこに送られているのか分かっていますか
議事録ツールは数が多く、サービスごとに扱いがかなり違います。最低限、次の4つは契約前に確認してください。
| 確認する点 | なぜ |
|---|---|
| 音声データと文字起こしの保存場所と保存期間 | 国内か海外か。何日で消えるのか。消さずに溜め続ける設計のものもあります |
| 精度改善のために人間が音声を聞く仕組みがあるか | 自動処理だけだと思い込みやすいところ。規約に書いてあります |
| AIモデルの学習に使われるか | 無料プランほど使われる設計になっていることが多い |
| 退職者のアカウントに残った録音をどう扱うか | 管理者が回収できないと、退職後も残り続けます |
無料プランで使い始めて、便利だったので全社に広がった。このパターンがいちばん多く、いちばん確認が抜けています。
ブラウザ拡張型は特に注意する
オンライン会議に自動で参加して録音する拡張機能があります。便利なのですが、仕組み上、会議の音声を外部サーバーに送っています。
気づきにくいのは、自分が入れていなくても、参加者の誰かが入れていれば録音されることです。取引先との商談で、相手側のツールが勝手に録音している。これは実際に起きています。
会議の参加者一覧に見慣れない名前のボットが入っていたら、それです。「Notetaker」「Assistant」「Recorder」といった名前で入ってきます。
社外との会議では、冒頭で「録音ツールを入れている方はいますか」と一言聞く。これだけでかなり防げます。聞きづらい雰囲気なら、参加者一覧を見て知らない名前があれば指摘する。
海外でも同じことが起きている
報道によれば、2023年にサムスン電子で起きた情報流出の1件は、社員が社内会議の文字起こしをChatGPTに送信して議事録を作らせたものだったとされています。ソースコードを貼った件のほうが有名ですが、議事録の件も同時に報じられています。
詳しくは事例をまとめた記事に書きました。会議の中身を外に出すという行為が、業務の自然な流れの中で起きるという点が重要です。
禁止より、分ける
議事録AIは生産性への効果が大きいので、全面禁止はおすすめしません。実際に禁止しても使われます。
現実的なのは会議を分けることです。
- 録音してよい会議(定例の進捗共有、社内勉強会、一般的な打ち合わせ)
- 録音しない会議(人事、与信、トラブル対応、未公表の案件、取引先との金額交渉)
会議の招集時に、主催者が1か2かを決めて書いておく。ルールとしてはこれだけです。判断に迷ったら2にする、という原則を添えておけばだいたい回ります。
人事と金額の話が外部ツールに入らないだけで、リスクの大半は消えます。
文字起こしの精度より、消し方を見る
導入検討のときはどうしても精度の比較になります。それも大事なのですが、同じくらい見ておくべきなのは、入れてしまったものをどう消せるかです。
録音を1件だけ削除できるか。アカウントごと消したら音声データも消えるか。消したあと、事業者側のバックアップから消えるまでどれくらいかかるか。
この3つに答えられないサービスは、何かあったときに困ります。精度が多少低くても、消し方が明確なほうを選んだほうが、長い目で見ると楽です。