ホーム / 記事
採用個人情報

採用の応募書類を生成AIで評価していいか

公開 2026-10-27

応募書類には氏名も住所も顔写真も揃っています。応募者は採用のために出した情報で、それ以外の使われ方は想定していません。ここが出発点になります。

◆ この記事の扱い

一般的な整理です。個別の運用が適法かどうかは、弁護士や社労士にご確認ください。

応募書類は、最も扱いの重い個人情報のひとつ

履歴書と職務経歴書には、氏名、住所、生年月日、学歴、職歴、顔写真が揃っています。応募者からすれば、採用のために提出した情報です。それ以外の使われ方は想定していません。

ここに2つの論点が重なります。利用目的の範囲と、選考という重い判断にAIを使うことです。

応募書類をAIに読ませたい 応募時の利用目的に「選考での利用」を 明示しているか ない ある まず利用目的を 直すところから 次に、AIに渡す形を 決める 氏名・住所・生年月日・写真を外す 推奨 経歴とスキルだけを渡せば、整理には足りる 合否そのものをAIに決めさせる やらない 説明できない判断は、後から必ず問題になる
整理させるのと、判断させるのは別の行為。前者は条件を整えれば実務に乗るが、後者は説明責任の問題が残り続ける。

まず利用目的を確認する

個人情報保護委員会は2023年6月の注意喚起で、個人データを含むプロンプト(AIに入力する文章)を入力する場合は、あらかじめ特定した利用目的を達成するために必要な範囲内であることを十分に確認するよう求めています。

採用の場面に当てはめると、自社が応募時に提示している利用目的が出発点になります。

「採用選考のため」とだけ書いてあるなら、選考のための整理に使うことは範囲内と整理しやすい。一方、応募書類を使って社内の人事制度を分析する、といった使い方は範囲外です。

◆ 書き足すなら今のうち

採用ページの個人情報の取扱いに、選考過程での利用方法を具体的に書いておくと後が楽です。文面は社労士か弁護士に見てもらってください。応募者に不信感を与えない書き方の工夫も要ります。

入力する前に外すもの

利用目的の問題をクリアしても、そのまま貼るのは避けてください。個人を特定できる部分は外せます。

項目AIに渡すか理由
氏名外す選考の整理に不要。名前で判断が揺れる懸念もある
住所・電話・メール外す完全に不要
生年月日・年齢外す不要。年齢による選別は別途問題になる
顔写真外す画像として渡す意味がない
性別外す不要
職歴・担当業務渡してよいこれが見たい中身
資格・スキル渡してよい同上
志望動機の本文社名を外せば可前職名が入っていることがある

外した状態でも、「5年の経験、Javaでの開発、チームリーダー経験あり」といった整理は十分できます。むしろ属性が落ちたほうが、見るべきところに集中します。

やってはいけないこと

AIに合否を決めさせる、点数を付けさせて機械的に足切りする。これは避けてください。理由を3つ書きます。

ひとつめ。説明できません。なぜ落としたのかを応募者に聞かれたとき、「AIがそう判断しました」とは言えません。社内でも説明がつきません。

ふたつめ。偏りが入ります。学習データの偏りが、特定の属性に不利に働くことがあります。海外では、過去の採用データで学習させた仕組みが特定の性別に不利な評価をしていた事例が報じられています。自分では気づけません。

みっつめ。規制の方向性が固まっていません。AIによる採用選考について、各国で規制の議論が進んでいます。日本でも将来的に何らかの枠組みができる可能性があります。今は問題なくても、運用を変えることになるかもしれない。

⚠ 「参考にしただけ」が通らない場面

AIの出力を見た後で人が判断した場合でも、その出力に引きずられたかどうかは証明できません。「最終判断は人がしています」という説明は、内部の運用記録がないと説得力を持ちません。

実務で成立する使い方

否定ばかりではなく、使える形を書きます。

要約と整理。100通の職務経歴書から、応募要件に関係する経験の有無を抽出して一覧にする。読む順番を決めるための下ごしらえです。落とすのではなく、並べ替えるだけ。

面接の質問案を作る。経歴を渡して「この経験について深掘りするなら何を聞くか」を出させる。質問の質が上がります。これは応募者にとってもプラスです。

求人票の文章を直す。応募書類を入れずにできる使い方。募集要項が分かりにくい、応募が集まらないときに効きます。

不採用通知の文面を整える。個人名を入れずに、文面のひな形だけを作らせる。

記録を残しておく

AIを選考過程で使うなら、どう使ったかを記録してください。

  1. 使ったサービスとプラン(学習に使われない契約か)
  2. 入力した項目(何を外したか)
  3. AIの出力をどう扱ったか(整理のみ/判断には使っていない)
  4. 最終判断は誰が、何を根拠にしたか

4番があると、後から説明できます。これは応募者対応というより、社内で自分を守るための記録です。

個人情報保護法まわりの整理はこちらの記事に、入力時の一般的な線引きはガイドラインのひな形に書きました。

急がなくていい領域だと思う

採用は、効率化の誘惑が強い割に、失敗したときの損害が大きい領域です。

応募者に「AIで落とされた」と思われるだけで、採用広報としては痛い。口コミサイトに書かれます。

要約と質問案作りだけでも、十分に時間は減ります。判断まで任せるのは、規制と相場が固まってからで遅くない。急いで先頭を走る必要のない領域です。

急いで先頭を走らなくていい領域

効率化の誘惑が強い割に、失敗したときの損害が大きい。要約と質問案作りだけでも十分に時間は減ります。

AI Security Lab は、生成AIを業務で使う会社向けの eラーニングです。 何を入力してはいけないか、設定で防げる範囲はどこまでか、漏れたときに最初に何をするか。 中小企業の現場で実際に起きることを前提に組んでいます。

講座の内容と料金を見る

序章とレッスン01は無料で読めます。登録は不要です。

あわせて読む

顧客情報を生成AIに入れると、個人情報保護法上どうなるか
入力した瞬間に即違法、という話ではありません。何が問題になるのか、どこで線が引かれるのかを条文に沿って整理します。
クレームメールを生成AIに相談するとき
急いでいるときほど、そのまま貼ります。そして健康被害の記述は最も重い類型です。
社内の生成AI利用ガイドライン、最低限これだけ書けばいい
立派な規程を作ろうとして止まるくらいなら、A4一枚で今週から回したほうがいい。そのまま使える文面を置いておきます。
人事評価のコメントを生成AIに書かせるとき
評価は昇給や処遇の根拠になる文書です。「AIが出した評価です」では合理性の説明になりません。