クレーム対応は、AIを使いたくなる条件が揃っている
感情的な文面が届く。すぐ返さないといけない。でも冷静な文章が書けない。一人で抱えると判断を誤る。
この状況でAIに相談したくなるのは自然です。実際、文面を整える用途としては効きます。
問題は、クレームメールには個人情報と取引情報が揃っていること。そして急いでいるときほど、そのまま貼ってしまうことです。
健康被害の記述に気をつける
見落とされやすい論点です。
食品、化粧品、医療機器、健康器具。これらのクレームには「使ったら発疹が出た」「食べて体調を崩した」といった記述が入ります。
病歴や身体の状況に関する情報は、個人情報保護法上の要配慮個人情報に当たり得ます。通常の個人情報より慎重な扱いが求められるものです。
健康被害の申し出は、対応を急ぎます。急ぐから、そのまま貼ります。そして内容が最も重い類型です。この組み合わせが事故を生みます。
こういう案件こそ、AIに相談する前に社内で人を増やしてください。AIより、もう一人の目のほうが効きます。
抽象化のしかた
実際の書き換え方を具体的に書きます。
そのまま貼る場合
田中様(tanaka@example.com)から下記のクレームが来ました。返信を考えてください。
「10月15日に注文した〇〇ミキサー(注文番号 A-20261015-0042)が3日で故障しました。サポートに電話しても繋がらず…」
抽象化する場合
小型調理家電のクレーム対応です。返信の構成を考えてください。
状況:購入から数日で故障。サポート窓口に電話が繋がらなかったことへの不満も含む。
当方の非:初期対応の遅れは事実。製品不良かは未確認。
方針:まず謝罪し、原因調査と代替品の手配を提案したい。
トーン:丁寧だが、原因未確認の段階で製品不良を認める表現は避けたい
下のほうが、返ってくる文面の質が明らかに上がります。状況と方針を言語化しているからです。
そのまま貼ると、AIは「何を聞かれているのか」を推測します。整理して渡すと、こちらの意図どおりに書いてくれます。手間ではなく、投資です。
出力をそのまま送らない
クレーム返信でこれをやると、だいたい失敗します。理由は2つ。
ひとつは、AIの文章は謝りすぎる傾向があること。原因が確認できていない段階で製品不良を認めたような表現になり、後の交渉で不利になります。
もうひとつは、定型的すぎて逆に怒らせること。クレームを言う側は、自分の話を読んでもらえたかを見ています。テンプレート感のある文面は、読まれていないと受け取られます。
構成と骨格はAIに作ってもらい、具体的な記述と謝罪の温度は人が書く。この分担が現実的です。
非を認める表現の範囲。返金・交換の約束。期日の明示。この3つは、AIが勝手に踏み込むことがあります。送信前に必ず読んでください。
社内の経緯を書かない
もうひとつ。クレーム対応の相談では、つい社内の事情を書いてしまいます。
「担当の〇〇が対応を怠っていた」「前にも同じ不具合が3件あって隠していた」。こういう記述は、外部サービスに残していいものではありません。
将来、訴訟や調査で記録が問題になる可能性もあります。社内の問題は社内の記録に書いてください。
向いている使い方
整理すると、クレーム対応でAIが効くのは次の場面です。
- 返信の構成を考える(謝罪、事実確認、提案、今後の順番)
- 書いた文面を冷静な表現に直してもらう
- 相手の主張の論点を整理する
- 想定される再反論を挙げてもらう
2番が実は一番効きます。腹が立っている状態で書いた文章は、自分では気づかない棘が入ります。それを指摘してもらう用途なら、固有名詞を伏せても何の支障もありません。
ルールに書くなら1行
お客様からのメールについて
お客様から届いたメールの本文を、そのままAIに貼り付けないでください。
状況を自分の言葉で要約し、氏名・注文番号・連絡先を伏せた形で相談してください。
健康被害に関する記述が含まれる場合は、AIに相談する前に上長に報告してください。
ガイドラインのひな形に追記して使えます。入れてしまった場合の初動はこちらの記事に書きました。
一度やってしまうと、癖になる
クレーム対応は件数が多い業務です。一度そのまま貼って楽だと分かると、次からも貼ります。
逆に、最初から抽象化して聞く癖がつけば、それも定着します。差がつくのは最初の数回です。
テンプレートを1つ用意して、共有フォルダに置いておく。それだけで、だいぶ変わると思います。