評価コメントは、個人情報であり、法的な文書でもある
評価シートのコメント欄を埋めるのは、管理職にとって重い作業です。10人分、20人分を期末にまとめて書く。文章が苦手な人ほど時間がかかる。
AIに手伝わせたくなるのは自然です。実際、文章を整える用途としては効きます。
ただ、人事評価には2つの性質があります。対象者の個人情報であることと、昇給・昇格・場合によっては解雇の根拠になる文書であることです。後者を忘れると、後で困ります。
健康に関する記述に注意する
評価の背景には、休職や通院の事情が含まれることがあります。「〇月から〇月まで療養のため休職」「通院のため時短勤務」。
こうした情報は要配慮個人情報にあたり得ます。評価コメントの相談でAIに渡すのは避けてください。
そもそも、健康上の理由による欠勤を評価にどう反映するかは、労務管理上きわめて慎重な扱いが要る論点です。AIに相談して答えが出る性質のものではありません。社労士に聞いてください。
「休職期間がある社員の評価をどうすべきか」と聞けば、AIは何か答えます。その内容が日本の労働法制や自社の就業規則に沿っている保証はありません。一般論と自社の規程は別です。
評価そのものをAIに決めさせない
理由は採用の記事に書いたことと重なりますが、評価のほうがより直接的です。
評価は、昇給、賞与、昇格の根拠になります。場合によっては、能力不足を理由とする処遇変更の根拠にもなります。
これらが争われたとき、評価の合理性が問われます。「AIが出した評価です」では、合理性の説明になりません。
そして評価者が内容を説明できない評価は、本人へのフィードバックでも破綻します。「なぜこの評価なのか」と聞かれて答えられない。
実務で成立する分担
うまくいくのは、この順番です。
- 評価者が、評価と根拠を自分の言葉で箇条書きにする(メモでよい)
- 固有名詞と具体的な数値を外して、AIに文章化を頼む
- 返ってきた文章を、自分の言葉に直す
- 固有名詞と数値を入れて完成させる
1番を飛ばして、いきなりAIに書かせようとすると失敗します。評価が決まっていないのに文章が出てくると、文章に引きずられて評価が決まってしまう。順番が逆です。
AIが書いた文章は、読めば分かります。表現が均一で、温度がない。部下は「テンプレートで済まされた」と受け取ります。評価コメントは、下手でも本人の言葉のほうが効きます。
AIの文章が評価コメントに向かない理由
使ってみると分かるのですが、生成AIの評価コメントには癖があります。
まず、褒めすぎます。改善点を伝えるよう指示しても、前向きな表現に寄ります。結果、本人に課題が伝わりません。
次に、抽象的になります。「コミュニケーション能力の向上が期待される」のような文章が出てきます。何をどう直せばいいのか分かりません。
そして、全員同じ文体になります。10人分を同じAIに書かせると、10人分が似ます。並べて読む人事部には一目で分かります。
これらは指示の工夫である程度は改善できますが、根本的には「具体的な事実を渡していないから」です。事実を渡すとリスクが上がる。ここがジレンマになります。
向いている使い方
評価コメントそのものより、周辺で効きます。
| 用途 | 入力するもの |
|---|---|
| 自分が書いた文章の表現を和らげる | 固有名詞を外した自分の文章 |
| 伝わりにくい箇所を指摘してもらう | 同上 |
| フィードバック面談の進め方を相談 | 状況の抽象的な説明 |
| 評価制度そのものの設計を検討 | 一般論。個人の情報は不要 |
| 評価シートの設問を改善する | 現在の設問文のみ |
1番目が実は一番効きます。腹が立っている状態で書いた評価コメントには、不要な棘が入ります。それを指摘してもらう用途なら、固有名詞は要りません。
ルールに書くなら
人事評価について
評価シートの内容、対象者の氏名・所属・業績数値を入力しないでください。
健康上の理由による欠勤・休職に関する記述は、いかなる形でも入力しないでください。
評価の判断そのものをAIに委ねないでください。評価と根拠を決めたうえで、文章表現の相談にのみ使用してください。
AIが生成した文章を、そのまま評価コメントとして使用しないでください。
ガイドラインのひな形に追記して使えます。
時間は減らない。質は上がる
正直に書くと、この使い方では作業時間はあまり減りません。評価を先に決めて、抽象化して、戻してきた文章を書き直す。手間はそれなりにあります。
ただ、質は上がります。表現が整理されて、伝わる文章になる。
時間短縮を期待すると失望します。評価を伝える精度を上げる道具だと思って使うと、ちょうどいい。