注文データは、個人情報の塊
小売やECの事業者が持っているデータは、氏名、住所、電話番号、メールアドレス、購入履歴。これが数千件から数万件あります。
件数が多いことには意味があります。個人情報保護法では、漏えいの際に報告が必要になる類型のひとつとして、対象が1,000人を超える場合が定められています。顧客リストを扱う事業者は、この水準をすぐ超えます。
CSVを貼る前に、列を落とす
「売れ筋の傾向を分析して」とエクスポートしたCSVをそのまま貼る。これが一番多いパターンです。
分析したいのは商品と数量と時期です。氏名も住所も電話番号も、分析には要りません。
エクスポートの段階で列を選ぶか、貼る前に削る。ひと手間ですが、ここで全部決まります。
| 列 | 分析に必要か | 扱い |
|---|---|---|
| 氏名 | 不要 | 削除 |
| 住所 | 都道府県だけなら有用 | 都道府県以外を削除 |
| 電話・メール | 不要 | 削除 |
| 顧客ID | リピート分析に必要 | 連番に振り直す |
| 商品名・数量・金額 | 必要 | そのまま |
| 購入日時 | 必要 | そのまま |
| 備考欄 | ほぼ不要 | 削除 |
顧客IDを連番に振り直すのがコツです。同じ人の複数回の購入を追えるので、リピート率の分析はできます。元のIDに戻せるのは自社だけなので、外に出ても個人にたどり着けません。
「不在がちなので夕方以降に」「贈り物なので金額のわかるものは入れないで」。備考欄には、本人が書いた個人的な事情が入ります。分析には一切使いません。
レビュー対応で気をつけること
低評価レビューへの返信文をAIに作らせる。これもよくある使い方です。
レビュー本文は公開されているので、貼ること自体は問題になりにくい。ただし、返信に顧客しか知らない情報を書かないでください。
「ご注文いただいた〇月〇日の件ですが」と返信すると、公開の場で購入履歴を明かすことになります。本人は特定されたくないかもしれません。
AIに作らせると、丁寧にしようとして具体的な情報を入れてくることがあります。送信前に必ず確認してください。
クレーム対応全般の考え方はこちらの記事に書きました。
商品画像と景品表示法
生成AIで商品画像を作る、または加工する。ECでは誘惑の大きい領域です。
ここは情報漏洩とは別のリスクになります。実物と異なる印象を与える表示は、景品表示法上の問題になり得ます。
生成AIで作った画像は、実物より良く見えがちです。色味、質感、サイズ感。意図的でなくても、優良誤認と判断される可能性があります。
イメージカットとして使うなら、その旨を明記する。商品そのものの写真は実物を撮る。ここは分けてください。
商品説明文は、かなり効く
一方で、商品説明文の作成はAIが得意な領域です。個人データも要りません。
仕様を渡して、ターゲット別に書き分ける。長い版と短い版を作る。SEOを意識したタイトルを複数案出す。モールごとの文字数制限に合わせる。
取扱商品が多い事業者ほど効きます。1商品あたり30分かかっていたものが5分になる。
ただし、仕様を間違えて書かれることがあります。素材、サイズ、原産国、成分。AIは渡していない情報を補完して書くことがあるので、公開前に必ず仕様書と突き合わせてください。
効能効果の表現は、薬機法や健康増進法の規制対象です。AIは規制を知らずに「〇〇に効く」と書きます。該当業種では、生成した文章を必ず薬機法の観点で確認してください。
店舗のルール
生成AI利用のルール(〇〇ストア)
1. 注文データ・顧客リストのCSVを、そのままAIに貼らないでください。
2. 分析に使う場合は、氏名・住所(都道府県以外)・電話・メール・備考欄を削除し、顧客IDを連番に振り直してください。
3. レビューへの返信文に、注文日や商品名など顧客しか知らない情報を書かないでください。
4. 商品説明文は、公開前に必ず仕様書と突き合わせてください。
5. 食品・化粧品等の効能効果に関する表現は、必ず〇〇が確認してください。
6. 商品画像は実物を撮影してください。生成画像をイメージとして使う場合はその旨を明記してください。
ガイドラインのひな形をベースにしています。
件数が多いぶん、1回のミスが重い
他の業種なら「数件の情報が出た」で済む事案が、ECだと「1万件」になります。
操作としては同じ、ドラッグして貼るだけ。違うのは中身の件数だけです。
だからこそ、CSVを扱う手順を決めておく価値が大きい。エクスポートのテンプレートに、分析用の列だけを選んだものを用意しておく。それだけで事故の大半が消えます。