扱っているのは未成年の情報
学習塾、習い事、保育、学校。この領域が他と決定的に違うのは、情報の主体が子どもであることです。
氏名、学年、通学先、成績、模試の結果、家庭の状況、保護者の連絡先。しかも保護者は「子どものために預けた」情報だと思っています。
未成年の個人情報について、個人情報保護委員会は年齢に応じた配慮を求める考え方を示しています。一般の個人情報より慎重に扱うべき領域です。
発達や健康に関する記述
面談記録には、こうした記述が入ることがあります。「集中が続きにくい」「診断を受けている」「服薬している」。
健康状態や心身の機能の障害に関する情報は、要配慮個人情報にあたり得ます。扱いが最も重い類型です。
「こういう特性の生徒への接し方を教えて」と相談したくなる場面はあります。気持ちは分かります。ただ、それは面談記録を貼らずにできます。
そのまま貼る場合
(面談記録を貼り付け)〇〇中学2年の△△さん、□□の診断あり。保護者から…
抽象化する場合
中学生で、45分の授業で集中が続きにくい生徒がいます。
短い区切りで進める以外に、指導上の工夫としてどんな方法がありますか
後者で十分な答えが返ってきます。そして、より踏み込んだ対応が必要なら、AIではなく専門家に相談すべき領域です。
答案や成績表の画像
「この答案の間違いの傾向を分析して」と写真を撮ってアップロードする。実務としては自然ですが、答案には氏名が書かれています。
名前の部分を隠せば済む話ですが、隠し忘れが起きます。そして一度アップロードしたら取り消せません。
答案の分析は、設問と誤答のパターンをテキストで書けば足ります。「大問3の(2)で、符号の処理を間違えた生徒が多い」。画像は要りません。
教材作成は、制約なく使える
ここが本題かもしれません。教育事業で生成AIが最も効くのは教材作成で、しかも生徒情報を一切使いません。
| 用途 | 効果 |
|---|---|
| 類題を大量に作る | 同じパターンの演習問題を数分で |
| 解説を書き直す | 同じ内容を学年別の言葉で |
| つまずきやすい箇所の説明を複数案 | 説明の引き出しが増える |
| 小テストの作成 | 範囲を指定して自動生成 |
| 保護者向けおたよりの文面 | 毎月の負担が減る |
| 指導案のたたき台 | 新人講師の育成にも使える |
ただし、生成した問題は必ず自分で解いてから配ってください。AIは計算を間違えます。答えが合わない問題を配ると、生徒が混乱するだけでなく、信頼を失います。
問題文と解答が整合していない、答えが割り切れない、条件が不足していて解けない。こうした問題が普通に生成されます。配布前の検算は省略できません。
著作権の扱い
もうひとつ、教育事業に固有の論点があります。
市販の問題集や入試過去問をAIに読み込ませて類題を作る、という使い方です。
著作物をアップロードする行為、そして生成された問題が元の問題に似ている場合の扱い。どちらも慎重な検討が要ります。教育機関には授業目的での複製に関する例外規定がありますが、AIへの入力がその範囲に入るかは別の検討が必要です。
安全なのは、単元と難易度を指定してゼロから作らせる方法です。既存の問題を入力せずに済みます。
保護者に説明できる状態にしておく
塾や習い事では、保護者からの信頼が事業の基盤です。
「先生、うちの子の成績表をAIに入れたりしてませんよね」と聞かれたときに、即答できるかどうか。
答えられる状態にしておくと、むしろ強みになります。教育事業者で生成AIの方針を明示しているところは、まだ少ない。
生成AIの利用について(〇〇塾)
1. 生徒さんの氏名、学年、通学先、成績、模試結果、面談記録は、AIに入力しません。
2. 答案や成績表の画像を、AIにアップロードしません。
3. 教材作成、指導方法の検討、おたよりの作成にはAIを使用します。この際、特定の生徒さんの情報は使用しません。
4. AIが作成した問題は、講師が必ず検算したうえで配布します。
5. 保護者の皆さまからのご質問には、いつでもお答えします。
これを教室に掲示するか、入塾案内に1枚入れておく。それだけで差がつきます。
隠すより、見せたほうがいい
生成AIを使っていることを隠す事業者がいますが、逆効果だと思っています。
使っていること自体は問題になりません。問題になるのは、生徒の情報をどう扱っているか説明できないことです。
「教材作成には使っています。生徒さんの情報は入れていません」と言えるなら、むしろ前向きに見えます。
社内ルールの作り方はガイドラインのひな形、教育の実施記録についてはこちらの記事を参照してください。