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医療機関・クリニックで生成AIを使うときの線引き

公開 2026-10-27

病歴も診断名も検査結果も要配慮個人情報です。加えて資格法に基づく守秘義務がある。それでも使える場面は、思っているより広い。

◆ この記事の扱い

一般的な整理です。医療機関には厚生労働省の「医療情報システムの安全管理に関するガイドライン」など固有の枠組みがあり、個別の判断は所属する会や顧問の専門家にご確認ください。

診療情報は、最も重い類型

病歴、診断名、検査結果、処方内容。これらは個人情報保護法でいう要配慮個人情報にあたります。本人の同意なく取得することが原則として認められていない情報です。

加えて、医師や看護師には刑法や各資格法に基づく守秘義務があります。違反には罰則があります。

一般企業の「機密情報」とは、法的な重さが違います。

入れない 患者氏名・生年月日・患者ID・住所 カルテの記載、診療情報提供書 検査結果、レントゲンやCTの画像 処方内容、レセプト 職員の健康診断結果も同じ扱い 入れてよい 公開されているガイドラインや添付文書の要約 院内掲示・問診票のひな形づくり スタッフ向けの手順書を平易に直す 一般的な疾患の説明文を患者向けに書き直す 境界:症例を相談したい場合 年齢を幅で、性別を伏せ、日付と地域を外せば成立することが多い
診療情報そのものは入れない。一方で、文書作成や患者説明の補助という用途は広く、そこは制約なく使える。

症例の相談は、どこまで抽象化すれば足りるか

臨床的な疑問をAIに相談したい場面はあります。そこで問題になるのが、どこまで消せば個人が特定できない状態になるか。

一般的な企業の情報と違い、医療では組み合わせで特定されやすいという特性があります。希少疾患、特異な経過、特定の年齢と地域。小さな地域の診療所なら、条件が3つ揃えば絞り込めます。

目安としてはこうなります。

  1. 氏名、ID、生年月日は当然外す
  2. 年齢は幅で書く(「70代」。希少疾患なら「高齢者」まで広げる)
  3. 受診日、入院日を書かない(「初診から2週間後」のような相対表現にする)
  4. 地域、施設名を書かない
  5. 希少な所見の組み合わせは、相談自体を避けるか、院内で完結させる

5番が実務的には重要です。珍しい症例ほど相談したくなりますが、珍しいほど特定されます。

⚠ 画像は外さない

レントゲンやCTの画像には、画像内に氏名やIDが焼き込まれていることがあります。医療用画像の形式(DICOM)には、撮影日や施設名がファイルの中に記録されています。画像は原則としてアップロードしない、と割り切るほうが安全です。

電子カルテ連携をうたう製品の確認点

カルテの要約、サマリの自動生成、音声入力からの記録作成。こうした製品が増えています。

業務の負担は確実に減るので、導入自体を否定するものではありません。ただ、確認すべき点が一般企業向けより多い。

確認する点なぜ
処理がどこで行われるか院内のサーバー内か、外部のクラウドか
データの保存場所(国内か海外か)外国の第三者への提供として整理が要る場合がある
モデルの学習への利用診療情報が学習に使われない契約になっているか
厚労省ガイドラインへの対応表明3省2ガイドラインへの準拠を文書で示せるか
人が内容を確認する工程精度担保のために外部のオペレーターが見ていないか
障害時・解約時のデータの扱い返却と削除の方法

4番は必ず書面で求めてください。口頭の「対応しています」では、監査のときに使えません。

職員の情報も対象になる

患者の情報ばかり意識されますが、職員の健康診断結果、ストレスチェック、休職の記録も要配慮個人情報です。

医療機関は職員数が多く、労務の書類も多い。「職員の健康診断結果を一覧にまとめて」といった使い方は、患者情報と同じ重さで扱ってください。

本当に効く使い方

診療情報を入れなくても、医療機関で使える場面はかなりあります。

患者向けの説明文を書き直す。専門用語を含む説明を、中学生でも分かる表現に直す。これはAIが得意な領域です。個別の患者情報は要りません。

院内文書の整備。問診票、同意書のひな形、院内掲示、感染対策の手順書。ゼロから作るより速い。

公開資料の読み込み。診療報酬改定の通知、学会のガイドライン、添付文書。何十ページもあって読むのが大変で、しかも公開情報。NotebookLMの記事に書いた使い方が向いています。

求人票やスタッフ募集の文面。人材確保が課題の業界なので、ここも実利があります。

院内ルールは、紙1枚で

生成AIの利用について(院内ルール)

1. 患者さんに関する情報は、氏名・IDを伏せた場合でも入力しないでください。
2. カルテ、検査結果、画像は、いかなる形でも入力しないでください。
3. 職員の健康情報・人事情報も同様です。
4. 公開されているガイドラインや添付文書の要約、院内文書のひな形づくり、患者さん向け説明文の言い換えには使って構いません。
5. 臨床的な相談をしたい場合は、事前に〇〇(医療安全責任者)に相談してください。
6. 入力してしまった場合は、すぐに〇〇へ連絡してください。報告したことで不利益な扱いはしません。

2番を「伏せても入力しない」と強く書いているのは、抽象化の判断を現場に委ねないためです。判断の幅を残すと、忙しいときに緩みます。

そのうえで5番の相談窓口を置く。全面禁止にせず、相談経路を残しておくのが現実的だと思います。

入れてしまったときの重さを共有しておく

一般企業なら「社内で対応」で済む事案でも、診療情報だと報告義務の検討が必要になります。要配慮個人情報が含まれる漏えいは、件数にかかわらず報告対象となり得ます。

初動の手順はこちらの記事に、報告書のひな形はこちらに置いてあります。

起きてから調べると間に合いません。先に読んでおいてください。

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生成AIに入れてはいけない情報 チェックリスト
この記事で書いた判断を、A4一枚にまとめてあります。 そのまま印刷して、生成AIを使う人のPCの横に貼れます。社名を入れ替えて社内で配っても構いません。
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入れてしまったときの重さを、先に共有しておく

要配慮個人情報が含まれる漏えいは、件数にかかわらず報告対象となり得ます。起きてから調べると間に合いません。

AI Security Lab は、生成AIを業務で使う会社向けの eラーニングです。 何を入力してはいけないか、設定で防げる範囲はどこまでか、漏れたときに最初に何をするか。 中小企業の現場で実際に起きることを前提に組んでいます。

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