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社内チャットボット

社内AIチャットボットの権限設計

公開 2026-10-27

「有給の繰越は何日まで?」と聞けば答えてくれる。便利です。ただ、作り方を間違えるとパート社員が役員報酬を聞き出せる状態になります。

社内チャットボットは、権限設計で決まる

社内規程やマニュアルを読み込ませて、「有給の繰越は何日まで?」と聞けば答えてくれる。社内チャットボットの導入相談は増えています。

仕組みとしてはRAG(検索拡張生成)と呼ばれるもので、質問に関係しそうな社内文書を検索して、その内容をもとにAIが答えます。

導入が失敗する原因は、たいてい精度ではありません。権限設計です。

よくある作り(権限を無視している) 就業規則 給与テーブル 業務マニュアル 人事評価シート 全部まとめて1つの検索対象へ 誰が聞いても、全部から探して答える パート社員が役員報酬を聞き出せる あるべき作り(権限を引き継ぐ) ① 質問した人が誰かを特定する ② その人が見てよい文書だけを検索対象にする ③ 検索できた範囲からのみ回答を作る 見えない人には、最初から検索されない
RAGは検索してから答える仕組み。検索の段階で絞らないと、回答の段階では止められない。「答えないでください」という指示は、言い換えで回避される

指示文で止めるのは無理

よくある対処が、AIへの指示文(システムプロンプト)に「給与に関する質問には答えないでください」と書く方法です。

これは効きません。言い換えればすり抜けます。

「給与規程の第12条を要約して」「社内文書で金額が書かれている箇所を列挙して」「人事部向けの資料の目次を教えて」。禁止ワードを避けた聞き方はいくらでもあります。

⚠ 原則

見せたくないものは、検索の対象に入れない。入れたうえで「答えないで」と指示するのは、鍵をかけずに「開けないでください」と貼り紙をするのと同じです。

権限をどう引き継ぐか

作り方は大きく2通りあります。

既存の権限をそのまま使う。Microsoft 365 CopilotやGoogle WorkspaceのGeminiは、もともとファイルの権限を引き継ぐ設計です。自前で作らずにこれを使うのが、いちばん確実で安い。詳しくはこちらの記事に書きました。

自前で作る。どうしても必要なら、検索の範囲を分けます。

検索の範囲入れる文書使える人
全社就業規則、業務マニュアル、社内用語集、FAQ全員
部門各部署の手順書、過去案件の記録その部署
管理職予算、要員計画課長以上
人事給与、評価、健康情報人事部のみ

最初は全社の範囲だけで始めるのを勧めます。それだけでも問い合わせはかなり減ります。欲張って全部入れると、設計が追いつきません。

入れてはいけない文書

範囲を分けるとしても、そもそも入れない文書があります。

  1. 健康情報、病歴、休職の記録(要配慮個人情報にあたりうる)
  2. 人事評価の個票、懲戒の記録
  3. 取引先から受領した資料(秘密保持契約の対象)
  4. 進行中のM&A、未公表の投資判断
  5. 顧客の個人データそのもの

3番が見落とされます。社内の共有フォルダには、取引先から預かった図面や仕様書が混ざっています。検索の対象を決めるときにフォルダごと指定すると、一緒に入ります。

この話は製造業の記事にも書きました。預かりものは自社の判断で出せません。

検索の対象を決める前に、フォルダを棚卸しする

これが実務上いちばん時間がかかる工程です。そして飛ばせません。

何年も運用してきた共有フォルダには、置き場所を間違えたファイルが必ずあります。人事フォルダに入れるべき資料が全社共有に置かれている、退職者が作った名簿が残っている、といった状態です。

今までは誰も開かなかったから問題にならなかった。チャットボットは、聞かれれば探します。

✓ 副産物のほうが価値がある

棚卸しをすると、たいてい放置されたフォルダと不適切な権限が見つかります。チャットボットの導入が頓挫しても、この作業だけで情報管理はかなり改善します。

回答の根拠を必ず表示する

設計上の必須要件です。回答と一緒に、どの文書のどこを見たかを出してください。

理由は2つ。ひとつは、間違った回答に気づけるから。もうひとつは、出てはいけない文書が参照されたときに発覚するからです。

根拠を出さない設計だと、権限設定のミスに誰も気づきません。「なぜかこの人が知っていた」という形でしか表面化しません。

運用で決めておくこと

  1. 検索の対象に何が入っているかの一覧を維持する
  2. 文書を追加するときの承認者を決める
  3. 質問と回答のログを取る(誰が何を聞いたか)
  4. 定期的に、出てはいけない文書が参照されていないか確認する

3番はプライバシーとのバランスがあります。取る範囲は事前に周知してください。この論点はログをどこまで取るかの記事に書きました。

小さく始めたほうがいい

社内チャットボットは、構想が大きくなりがちです。全社の全文書を横断検索して、何でも答える。理想としては分かります。

ただ、そういう設計ほど権限が破綻します。そして一度でも人事情報が出たら、プロジェクトは止まります。信用が戻りません。

就業規則と業務マニュアルだけ。社員の誰が見ても問題ない文書だけ。まずここで回してみて、問い合わせがどれだけ減るかを測る。

地味ですが、これが一番うまくいきます。

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小さく始めたほうがいい

一度でも人事情報が出たら、プロジェクトは止まります。信用は戻りません。

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