AI-OCRは「読み取り」ではなく「送信」
請求書や領収書をスキャンして、AIが項目を読み取って会計ソフトに流し込む。電子帳簿保存法への対応もあって、導入が一気に進んだ領域です。
ここで押さえておくのは、多くのAI-OCRがクラウド側で処理していることです。手元のPCで読み取っているのではなく、画像を事業者のサーバーに送って、結果を受け取っています。
つまり、取引先の社名、金額、口座番号、担当者名が、まとめて外部に渡ります。
「人が目視している」ことがある
ここが意外と知られていません。
AI-OCRの多くは、読み取り精度を担保するために、自動処理で確信度が低かった箇所を人間のオペレーターが目視して補正する工程を持っています。完全自動ではありません。
サービスによっては、この工程を海外の拠点や外部委託先が担当しています。つまり請求書の画像を、どこかの誰かが見ています。
これ自体が悪いわけではありません。精度のためには合理的な設計です。ただ、知らずに使っているのと、知って契約しているのでは意味が違います。
「オペレーターによる目視確認の工程はありますか。ある場合、その担当は国内ですか、海外ですか。再委託はありますか」。この3つを営業担当に聞いてください。答えられない場合は、書面で回答をもらってください。
個人情報保護法の論点
請求書や領収書には、個人事業主の氏名・住所が入ることがあります。法人名だけなら個人情報ではありませんが、個人事業主は本人を識別できる情報です。
さらに、処理を委託する形になるため、委託先の監督義務が生じます。個人データの取扱いを委託する場合、委託先に対する必要かつ適切な監督が求められます。
具体的には、委託先の選定基準、契約における安全管理措置の定め、取扱状況の把握。このあたりが論点になります。
海外のサーバーで処理される場合は、外国にある第三者への提供として別の整理が必要になることもあります。詳しくは個人情報保護法の記事と、顧問の専門家にご確認ください。
読み取り精度の落とし穴
セキュリティとは別ですが、実務で効く話なので書きます。
AI-OCRは、だいたい合っています。だいたい、というのが曲者です。
| 間違えやすいところ | 起きること |
|---|---|
| 手書きの数字(1と7、0と6) | 金額が桁違いになる |
| 複数ページの請求書 | 2枚目の合計を拾ってしまう |
| 軽減税率が混在する明細 | 税区分が一律になる |
| 値引き行・マイナス表記 | 符号が落ちる |
| 似た社名の取引先 | 別の取引先に計上される |
| 振込先の口座番号 | 1桁違いでも気づきにくい |
最後の行が怖い。口座番号の読み間違いは、振込ミスに直結します。しかも相手に届かないと分かるまで時間がかかります。
金額と口座番号は、人が目視で照合する工程を外さないでください。全件が難しいなら、一定金額以上と、新規取引先の初回だけでもいい。
導入時に決めておくこと
- 対象とする書類の範囲(請求書だけか、見積や契約書も通すのか)
- 目視確認を残す基準(金額、新規取引先、手書き書類など)
- 読み取り元の画像の保管場所と保管期間(自社側)
- サービス解約時に、預けたデータをどう返却・削除してもらうか
4番が抜けがちです。会計システムは長く使うので意識されませんが、乗り換えるときに揉めます。契約時に確認しておいてください。
生成AIのルールと別扱いにしない
AI-OCRは「業務システム」として導入されるので、生成AIの利用ルールの対象外になりがちです。情シスではなく経理が選定することも多い。
ただ、外部に業務データを送っているという点では同じです。ルールの対象に含めてください。
ついでに言うと、議事録AIも同じ理由で漏れます。「生成AI」という言葉で括ると、こういうツールが抜け落ちる。
「生成AIの利用について」ではなく「外部のクラウドサービスに業務データを送る場合」と書くと、OCRも議事録も翻訳も自動的に入ります。対象を広く取るほうが、結果的に抜けが減ります。
便利さは本物
ここまで注意点を並べましたが、AI-OCRの効果は本物だと思っています。月数百枚の請求書を手入力していた会社が、確認作業だけになる。これは大きい。
やめたほうがいいという話ではなく、何を外部に出しているかを把握したうえで使うという話です。把握していれば、聞かれたときに答えられます。
取引先から確認を求められる場面についてはこちらの記事に書きました。