設定が動かしているのは「学習に使うか」だけ
ChatGPTの設定画面には、入力した会話をモデルの改善に使うかどうかを選ぶ項目があります。日本語では「すべての人のためにモデルを改善する」という名前で、データ管理(データコントロール)の中にあります。これをオフにする操作が、いわゆるオプトアウトです。
ここで止まる説明が多いのですが、大事なのはこの設定が何を動かしていないかのほうです。
オフにしても、入力した文章はOpenAIのサーバーに送信されます。送信は止まりません。送られた内容は一定期間保存されます。不正利用の監視や法令対応のために、事業者側が保持する仕組みは残ります。つまり「社外に出た」という事実そのものは変わりません。
「学習させない設定=入力した情報が外に出ない」ではありません。学習に使われるかどうかと、社外のサーバーに送信されるかどうかは、別の話です。
社内で説明するときは、ここを分けて言わないと伝わりません。「設定したから何を入れてもいい」という理解が広まると、むしろ危なくなります。設定を入れた直後がいちばん油断が出ます。
設定で消えるリスク、残るリスク
整理するとこうなります。
| リスク | 学習オフで | 補足 |
|---|---|---|
| 入力内容がモデルの学習に使われ、他人への回答に出てくる | 減る | 設定が効く範囲。ただし過去の入力にはさかのぼりません |
| 入力内容が事業者のサーバーに送信され、保存される | 変わらない | 保存期間は各サービスの規約による |
| 事業者側の障害や不正アクセスで、入力内容が外部に出る | 変わらない | 預けている以上ゼロにはできません |
| アカウントが乗っ取られ、会話履歴を読まれる | 変わらない | 多要素認証の話で、学習設定とは無関係 |
| 社員が共有PCでログアウトせず、履歴を他人に見られる | 変わらない | いちばん現実に起きるのはこれ |
| そもそも入れてはいけない情報を入れてしまう | 変わらない | 設定では一切防げない領域 |
表の下4行は、設定をどういじっても動きません。ここが本体だと思っています。
法人向けプランは扱いが違う
ChatGPTのBusiness、Enterprise、それからAPI経由の利用は、既定で入力内容をモデルの学習に使わない扱いとされています。利用者側でオプトアウト操作をしなくてよい、という設計です。GoogleのWorkspace版Gemini、MicrosoftのMicrosoft 365 Copilotも、契約者のデータを基盤モデルの学習に使わないと説明しています。
ただ、学習に使われないことと、どこにも保存されないことは別です。法人プランでは管理者が会話ログを閲覧できる設定が用意されていることがあります。退職者のアカウントに残った履歴をどう扱うかも、契約内容で変わります。
契約前に見るのは次の3点です。入力データを学習に使うか。保存期間は何日か。管理者が会話内容を見られるか。どれも規約やデータ処理契約に書いてあります。営業担当の口頭説明ではなく、文書で確認してください。
画面の名称やメニューの位置は、サービス側の更新でわりと頻繁に変わります。この記事に書いた名前も、読んでいる時点では違っているかもしれません。設定名を暗記するより、「学習に使うかを選ぶ項目がどこかにあるはずだ」と知っているほうが長持ちします。
無料プランを業務で使っている場合
中小企業でいちばん多いのが、社員が個人の無料アカウントで業務に使っている状態です。会社としては契約していないので、規約上は個人利用。何かあっても会社から事業者に問い合わせる筋がありません。
この状態で学習オフだけ案内しても、片手落ちです。少なくとも次のどれかに倒す必要があります。
- 会社として法人プランを契約し、個人アカウントでの業務利用をやめさせる
- 無料アカウントの利用を認めたうえで、入れてよい情報の範囲を明確に限定する
- 業務での生成AI利用自体を認めない(ただし実際には使われます。シャドーAIの話に続きます)
1番が理想ですが、予算の都合で2番を選ぶ会社も多い。それ自体は悪くないと思います。悪いのは、2番を選んだのに「入れてよい情報の範囲」を決めないまま放置することです。
結局、設定は前提条件でしかない
学習オフは、やらないよりやったほうがいい。これは間違いありません。10秒で終わります。
ただ、それで対策が終わったと思うと危ない。設定で防げるのは表の1行目だけで、残りは人の判断と運用の話です。顧客名簿を貼るかどうかは、設定画面のどこにも書いていません。
自分が会社に入るとしたら、設定の説明より先に「何を入れたらアウトか」の例を10個見せてほしい。そっちのほうが効きます。